会長挨拶

ご挨拶

2022年7月17日の社員総会において全国病児保育協議会会長を拝命しました。就任にあたり病児保育のあり方と今後の方向性について述べさせていただきます。

前会長の大川洋二先生は6年間、本協議会を牽引し、すべての会員が安心して子どもたちをお預かりできるようご尽力いただきました。具体的には、1.組織の強化、2.病児保育室の安心・安全な運営、3.病児保育学の確立を掲げられ、ご指導いただきました。この間、登録施設数も664施設から796施設まで増加しました。

前会長がご指摘されてきたように、私たちが克服していかなければならないことは、1.本協議会の組織としての強化、2.各病児保育室の安心・安全な運営、3.病児保育学の確立です。今後、私もこれらの問題をみなさんとともに考え、乗り越えていく所存です。

子どもたちの最高の笑顔のために、保護者の方たちと育児の素晴らしさを共有できることを目指して行ければと思います。

それではこれらの課題に対しての協議会の現状と目指していることについて私の方針を述べたいと思います。

組織の強化

2022年度の理事会で社員制度が導入されました。これに伴い全国を7つのブロックに分け、ブロックごとの会員数をもとに社員数が決められました。またブロックを越えて全国的に活躍されている方にも社員に入っていただきました。各ブロックと社員の方のお名前はホームページ上に記載されています。社員規定についても、新しい定款に記載されていますのでご参照ください。そして、協議会の運営を行っていく執行機関として常任理事会及び理事会があります。会長という立場で、定款にある協議会の目的、使命、責任を全うできるように、理事の皆様と一緒に全力を尽くしたいと思います。

これまでの伝統と新しい組織が広く認められ、各施設にとって「本協議会に入会して良かった」と思われるように努力していきたいと考えています。

安全安心を担保するための努力

現在、新型コロナウイルス感染症の猛威が続いていますが、この感染症が始まった2020年、全国殆どの病児保育室は利用者が激減しました。本協議会としても調査研究委員会を中心にデータを集積し、厚生労働省に交渉して、出来高部分での加算制度を一時的に見直し、補助金を前年実績で出していただくことになりました。また安定的な経営をとの協議会の声が届き、令和3年より基本額の増額も行われました。私たちは、社会情勢の変化などで容易に左右される不安定な経営状況のなかで、日々の運営をしています。キャンセルの問題など各施設ではこれまでも行政と交渉をしてこられたと思いますが、これには病児保育制度の改革が必要です。引き続き厚生労働省、新設される子ども家庭庁とも協議し、病児保育の現場の声を訴え続けていきたいと考えています。

安心して運営できる環境が整備されることで、私たちは安全な運営ができるようになります。病児保育施設のリスク管理、スタッフによる病児への保育力の養成及び維持を図る活動も必要です。病児向けインシデント管理システム(mims)へのご協力もぜひ加盟の皆様施設で導入をお願いします。また地域に根ざした持続可能な組織運営としてBCP(事業継続計画)の考え方も重要です。昨年改訂した「病児保育室の事故防止ガイドライン」の第6章に危機管理の考え方としてBCP策定の実際について概説してあります。

協議会として制度の変更、新規役割に関して安全性を重んじ、病児へのメリットある制度や運営を目指すために新委員会として「病児保育あり方委員会」も設置いたしました。そこでもさらに、多角的な視点から病児保育のあり方を検討していきたいと考えています。

病児保育学の確立

すでに、毎年開催されている全国病児保育研究大会や各地域での研修会では、病児保育の現場から上がってきた問題を”科学“する試みは続いています。いわゆる「病児保育を科学する」試みです。殆どの病児保育室でみなさんが、そして保護者の方が抱く最初の疑問は、「入室して感染(うつ)らないの?」「感染(うつ)さないの?」かもしれません。しかし、ガラスの部屋にでも閉じ込めない限り、どこにいても、様々なウイルスや感染症に感染(うつ)るリスクはあります。預かる子どもはどのような感染症なのか?どのような重症度なのか?感染力は高いのか?など、きちんとした知識を持って、エビデンスに基づいた対応と説明が必要です。そのために感染症対策委員会はガイドラインを作成し、標準的な対応を定めています。さらに加入施設からの病児室内感染例の報告制度を設け、その問題点を検証しています。その他、病児保育に関わる様々な問題は学会発表での討論、論文による報告を行い、その論文発表の場として機関誌「病児保育研究」があり、毎年号を重ねています。

また、スタッフによる病児への保育力の養成維持には研修委員会が担当し、全国病児保育研究大会での研修会の開催や、各地区ブロック研修会への講師派遣をおこなっています。

さらには、病児保育専門士制度を確立し、病児保育に従事し十分経験ある保育士、看護師を対象に講習・レポート作成・口頭試問を行い、合格者には病児保育専門士として「全国病児保育認定 病児保育専門士」の資格を授与しております。

また書籍としては、当協議会が様々な書籍の発行をしており、病児保育のあり方、施設の作り方、スタッフに必要な情報、知識をまとめたものに「必携病児保育マニュアル」「感染症テキスト」「事故防止ガイドライン」などがあり病児保育での標準的な教科書としての評価も定まっています。

このように、皆様が、日々の保育の中で経験したことを集約し「科学」することで、そのエビデンスは蓄積され病児保育学が確立していくと思われます。

現在も我が国の少子化の流れは続いていますが、一人ひとりの子どもたちの健全な成長のために病児保育施設は無くてはならないものとなっています。単なる少子化対策ではなく、様々な病気の状態にある子どもたちが安心して過ごすことのできる保育環境づくりは、結果として出生数の増加に貢献できると考えます。これからも一層の病児保育の充実と社会的貢献が期待されています。

皆様と共に、最適な病児保育を確立するために進んでいく所存です。更に多くの施設の入会をお待ちしています。

令和4年9月31日 全国病児保育協議会会長 杉野 茂人